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2021年3月31日

中高年の健康戦略(31) 「転倒防止(2)」富士通川崎病院 顧問 行山康

 この健康戦略の第24回で「転倒防止」ということを書きました。今回はその続きで書き足りなかったことについて少し述べてみます。
 転んでも障害を残さないためにさまざまな心構えをすることはもちろん大切です。しかし其れより以前にもっと大切なことは自分がどのくらい衰えているのかをしっかりと自覚することではないでしょうか。多くの事故は自分の力を過信していたというよりは衰えたこと、運動能力が低下していたことをほとんど自覚していなかったことから発生します。
 すなわち敏捷性、体の柔軟性、とっさの反応性、視力、聴力、危険察知能力などすべてが少しずつ衰えてきているのに、日常の連続的な時間の流れの中で気がつかないでいることが問題なのです。自宅の階段で転落して怪我をしてから、手すりをつけるのでは遅いのです。

 ところで日常生活の大部分の動作はほとんど無意識で特別の力をつかいません。なにげないことなので天から授かったようにおもっているかもしれませんが多くの動作は訓練を繰り返すことによって「なにげなさ」が可能となってきたのです。例えば立って歩くなどは何回かの努力の後、ヨチヨチ歩きとなり、やがて訓練を重ねるうちに滑らかな歩行を無意識に行うようになることはお孫さんの成長を見守っておられるかたならば直ちに了解するでしょう。
 さまざまな身体能力は訓練を重ねることにより可能となり,滑らかな動作となります。自転車にのることを思い起こしてください。最初はふらふらしていますが、訓練を重ねるとすうっと滑らかに倒れないで漕ぐことができるようになります。車の運転でも最初は曲がるのもこわごわですが、少し乗りこなすと体と車が一体となるような感覚が出現し、ほとんど無意識に車を運転できるようになります。車幅感覚のようなものも自然と身についてまいります。こうした訓練によって獲得した能力は容易に衰えるものではありません。それでも老いは忍び寄ってきて少しづつその能力を削いでゆくのです。
 顔を洗ったり、歯を磨いたり朝食を食べたり、衣服の着脱などの日常生活動作は全くなんの危険もないようにおもわれます。そんなことでもひとつひとつ点検して手順を確かめる気持ちを持つことが必要となってきます。早いはなしが歯磨きひとつとっても磨く力を適正に、うがいのときは気を抜かないでしっかりおこなわないと、ちょっとした力の加減の狂いで口腔粘膜を傷つけ、またうがいの失敗で気管へ誤飲してしまうなどということがおこります。
 無意識に反射的におこなう動作であっても常に脳神経細胞のコントロールのもとにあります。この反射回路は老化とともに少しづつ磨り減り、脱落する傾向にあるからです。

したがって中高年ではさまざまな生活動作の細部にわたって、意識的に動作を確認する習慣をつけるとよいでしょう。このことはいまでは無意識となっている動作が磨り減る事を防ぎ動作の安全性を高めます。これこそが「転ばぬ先の杖」です。

 というわけで意外なところに潜む危険を探知してみましょう。例えば犬を飼っておられる方では散歩のとき。飼い犬の性質を熟知しているつもりでも動きにつられて、足をもつれさせてけがをしたかたを二人はしっています。一人は足首の捻挫と打撲で済みましたがひとりのかたは腕の骨折をおこしました。転んで手をついたのでしょう。骨がもろくなっている場合もあるので要注意です。
 また競うような運動も要注意です。スポーツ中の事故で最も多いのはゴルフですが、これは競技人口も多く,プレヤーに比較的、年齢の高い方が多いから事故の絶対数は多いです。プレー環境の条件によって心筋梗塞、脱水症,熱中症などの全身性疾患は特に重篤な結果を招きます。またときにはクラブを思い切って振って肋骨骨折をおこしたかたもいます。
 しかしスポーツ中の事故としてはテニスとか長距離走のほうが比率的には多いです。競技スポーツはジムでマシーンによってランニングしたり,漕いだり或いは筋肉強化をするよりはずっと楽しく、苦行を感じないで取り組むことができます。そのため夢中になって自分の限界を超えてしまうことがあるのです。
 テニスではまさに「転倒防止」の表題にふさわしい下肢のトラブル(脱臼、捻挫,骨折、腱断裂など)が要注意です。
 またマラソンのような競技では少しでも早くと頑張ることは自然なのですが自分の限界をこえて頑張ってしまう危険もあるのです。

 繰り返しますが大部分のひとは自分の運動能力とか身体能力がいつのまにか低下していることをそれほど自覚しておりません。何故ならば健康に生活しているかぎり、昨日と今日では違うということを感じないのが普通だからです。いつも元気でパワーに溢れているかたほど、危険予知能力がマスクされていて転倒したりちょっとした怪我を起こしやすい傾向があります。
 知り合いの弁護士さんのことですがスキーを覚えたばかりだけど面白くてたまらない。初心者なのでよく転ぶ。あるとき,やや急な斜面にきて思い切ってほかの人がスイスイ滑ってゆくように滑って見たいと思った。えーいどうだという勢いで少し滑り降りたが技術が伴わないから転倒、下腿骨骨折となった。この場合,気持ちに技術が伴わずに転倒したことは致しかたないでしょう。問題はちょっとした転倒で骨折にいたるほどに、体の柔軟性,敏捷性が衰えていたことを忘れていたことにあります。
 高速道路の出口を逆走することがないように、自宅の段差もない床で転げることがないように、日々に鍛錬につとめ生活習慣としてゆきましょう。年だからといって萎縮している事は人生を狭くします。無意識の動作を意識化し、訓練して元気に健康にお過ごしになることが小生の願いでもあります。
(この項終わり、次回に続く)



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